アルカディア
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・誠一
アルカディア探偵社の社長(ぽい人)。
探偵に憧れてあれこれ道具を買うが、法律に引っかかる為に使ったことは一度もない
・智樹
アルカディア探偵社の社員。
癌で病院に入院し、特効薬のおかげで完治はするが。。。。
・千秋
アルカディア探偵社の社員。
誠一の彼女で結婚予定は今の所なし
・ゆき
謎多き未来人(自称)
男女どちらが演じてくれても構いません
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智樹:「いっただきまーす」
入り口の方でがちゃりと開く音がして顔を向けると
そこにいたのは。。。。
千秋:「嘘・・・・なんで・・・」
事務所で向かい合う誠一と智樹、少し離れたところに千秋がいる。
誠一:「うわああああああああ!!!」
机に置いてあるナイフを取り、『それ』に向かってナイフを刺そうとする
千秋:「セーチ、やめて!!」
刺したナイフを引き抜き見つめる誠一の表情は見えない。
苦悶の表情の『それ』。だが、一言も発しない。
ただただ、息も漏らさず誠一を見つめている。
この風景を見つめる未来人の『ゆき』が佇んでいる
ゆき:「これは何時かの風景。……未来?過去?それとも現在?
……これは現実?空想?夢?いえ、これは事実。
そしてきっと、真実。真実はいつだって一つしかないのだから」
ゆきを残して辺りが暗くなっていく
ゆき:「20XX年、人類は光よりも早いニュートリノという粒子を発見し、
相対性理論を根底から覆す実験結果の数々がタイムトラベルの可能性を見出し始める。
時は進み、人は脳の99%を解析し完了すると同時に、
記憶の媒体を情報化するプロジェクトが開始される」
話しながら右往左往するゆき
ゆき:「更に時は進み、ニュートリノ研究チームのもとへ自称未来人がやってくる。
その未来人によってタイムマシンの存在が確定し、
タイムマシンによる試験的な人体実験がスタート。
タイムパラドクスは存在せず、多元世界論が世界の真理だと人類は決定づける事となる」
3人と『それ』を見つめながら話を続けるゆき
ゆき:「それから………、これはまだ見ぬ未来の話。
あり得るかもしれないし、あり得ないかもしれない話。
この時間軸はタイムマシンが開発されない世界線、なのかもしれない・・・」
一呼吸置く
ゆき:「これから始まる物語は現代の、
それも地方都市に住む三人の運命とも言える小さく、
笑ってしまうくらい小さい事件の話・・・だから・・・」
言い終えると、その場から消える
事務所には一人、書類整理中の誠一がいる。
そこへ電話の音が鳴る
誠一:「はい、こちらアルカディア探偵社。どのようなご依頼で…」
入口から入ってくる千秋。
千秋:「ただいまー」
誠一:「はい、はい……そうですか。
しかしですね、当社では殺人事件は扱っておりませんので…」
0:少しの間
誠一:「真犯人がいるはずとおっしゃられても…はい。
探偵であることは間違いないのですが、
『身辺調査や企業調査』が主な仕事となっておりますので、ええ・・・。
盗聴器等の捜索なら出来ますが・・・いかんせん現場に入ることは不可能でして、
あー・・・それは・・・無理ですねぇ、申し訳ございません・・・。
はい、はい……。ですが、これだけは言わせてください。……真実はいつもひと――!」
言い終える前に千秋に電話を切られる。
千秋:「また?」
誠一:「また言えなかった・・・悔しい!」
千秋:「そのセリフを言おうとするから変な噂立つんじゃないの・・・?」
誠一:「真実はいつもひと――!」
千秋:「(被せて)・・・はいはい」
お茶を入れ、誠一のもとへ持っていく千秋。
書類整理に戻る誠一。
千秋:「お疲れ様」
誠一:「ありがと」
千秋:「今日も成果なし?」
誠一:「なーんも不審な所なんてありゃしない。依頼主の勘違いなんじゃねえの?」
千秋:「それ・・・本人の前で言ったらだめだからね」
誠一:「ていうか、今回の案件ひどくねぇ?奥さん、家から一歩も出やしないし、
部屋に引きこもってオンラインゲームでもやってるんじゃね?って感じ」
千秋:「なんだっけ、最初の言葉」
誠一:「『…妻が最近構ってくれない、飯も作らないし浮気してるんじゃないか?!』
って、・・・いやいや、電気メーターが異様に回ってる以外はなんも変な所ないし!」
千秋:「通話アプリでずっと話しているのかもしれないよ?」
誠一:「まあ、そうかもしれんが」
千秋:「いいじゃない、楽な仕事で」
誠一:「楽っちゃ楽だけどさぁ」
千秋:「不審な点がなければ誰も悲しむことないんだし、私たちは報酬がもらえるし」
誠一:「そうだけど、なんつーの?
俺は、こう・・・探偵やってるって実感が欲しいんだよ!
麻薬取引の現場つかむとか、ヤーさんの事務所に盗聴器仕掛けるとか」
千秋:「盗聴器なんてあったけ?」
誠一:「あるよ!事務所立ち上げた当初に買ったんだけど!?」
千秋:「でも使ったことないよね・・・?」
誠一:「使う機会がなかったの!盗聴とか、探偵!って感じで憧れてたんだよね」
千秋:「変なところで子供っぽいよねセーチは」
誠一:「ロマンと言え!」
千秋:「はいはい。じゃあ、さっきの『コロシの依頼』受けようか?」
誠一:「嘘です・・・いいです。一般市民には無理です」
千秋:「それにしてもセーチ、張り込み苦手だよねぇ」
誠一:「じっとしてるのは性に合わないんだよ。
こういうヤマの担当は智樹の仕事なんだから、
早く帰ってきてくれねぇと困るんだよなぁ・・・」
千秋:「そう・・・ね」
誠一:「そうだよ!いないと困るやつなんだよ」
千秋:「いないと寂しいもんね」
黙る二人
誠一:「千秋、今日は病院行った?」
千秋:「今日はまだ」
誠一:「そう」
千秋:「癌・・・だよね」
誠一:「ああ」
千秋:「簡単には治らないよね」
誠一:「治ればいいけどよ」
千秋:「一昨日倒れて」
誠一:「そのまま入院して」
千秋:「帰って来るよね・・・?私たち・・・大丈夫だよね」
誠一:「俺が知るかよ」
千秋:「ごめん。でもさぁ――」
誠一:「(被せて)智樹はすぐ帰って来るさ。・・・あいつは絶対帰ってくる」
千秋:「うん」
誠一:「俺たちが信じてるんだから間違いないって。
明日にも帰ってくるから心配なんかいらないんだよ」
千秋:「そう・・・だね」
誠一:「だから俺が張り込みも追跡も頑張るの。で、千秋は集めたデータの整理」
千秋:「ともくんが帰ってきたとき倒産してましたとか言えないもんね」
誠一:「それにさ…」
千秋の腕をつかみ近くに手繰り寄せる誠一。
誠一:「たまにはここで、二人っきりってのもいいと思わね?」
千秋:「ちょっ、なに・・・?」
誠一:「なあ」
千秋:「ばか・・・誰か来るって」
誠一:「誰も来ねえよ」
千秋:「それ、事務所として問題じゃない?」
誠一:「たまには恋人らしいことしようや」
千秋:「今じゃなくていいでしょ?」
誠一:「すぐ済むから…」
千秋:「もう…」
キスを迫る誠一。
誠一:「いつもならここで――」
智樹:「(被せて)ただいまー!」
誠一:「って智樹が帰って来るのにな」
智樹が入り口から入って来る
誠一:「……え?」
千秋:「………え?」
智樹:「ただいま」
誠一:「ええええ!?」(※できれば同時に)
千秋:「ええええ!?」(※できれば同時に)
焦って離れる二人
誠一:「智樹、だよな・・・?」
智樹:「へぇ、俺がいないときはいつもこんなことしてたんだねぇ」
千秋:「いつもじゃないから、っていうか初めてだから」
智樹:「へえ、ソウナンダァ(棒読み)」
誠一:「ソウナンダヨォ?おかしいことはなにもないさ!
あっはっはっはっは(乾いた笑い)」
智樹:「別にいいけど、出来たら家に帰ってからやれよな」
誠一:「家に帰っても業務残ってるし」
千秋:「仕方ないじゃない。仕事は仕事なんだから」
智樹:「じゃあ、今のもお仕事の一環?」
誠一:「そうそう、ハニートラップの練習を買って出たのさぁ」
智樹:「ハニートラップねえ」
千秋:「っていうか!・・・ともくん、病院は?」
誠一:「そうだ!お前・・・」
智樹:「それがねぇ、治った!」
誠一:「治るわけあるか!」
智樹:「つっこみ早っ!」
千秋:「実は癌じゃなかったとか?」
智樹:「癌だったよ。
胸がすっげー痛くて、眠れないくらいに不安で恐ろしくて怖かった」
千秋:「じゃあ、帰ってきたらダメじゃん!」
智樹:「だから治ったってば」
誠一:「癌が入院して二日で治るわけあるかぁ!」
智樹:「治ったの!特効薬で」
千秋:「癌の特効薬?」
智樹:「そう」
誠一:「そんなもん聞いた事もないね、
現代の医学じゃ癌は切除以外に治しようがないの!」
智樹:「誠一、俺が戻ってきたらダメみたいに言うなぁ・・・」
誠一:「そういう問題じゃねえ!…そういう問題か?」
千秋:「とにかく、身体は大丈夫なの?」
智樹:「大丈夫」
千秋:「本当に?」
智樹:「大丈夫だってば、なんならレントゲン見せようか?文字通り影も形もないから」
千秋:「信じていいの?」
智樹:「…いいんだよ、千秋」
千秋:「よかったぁ…」
智樹の手を握りながら崩れ落ちる千秋。
誠一:「なんか釈然としないなぁ」
智樹:「しつこいな」
誠一:「でもさ、元気になってよかったな」
智樹:「ありがと」
誠一:「いくらなんでも早すぎるがな・・・」
智樹:「いいことだって」
誠一:「じゃあ、張り込み任せられるな?」
智樹:「いきなり仕事かよ!病み上がりだぞ」
誠一:「治ったんだろ!?元気なんだろ?じゃぁ、いいじゃねえか」
智樹:「まあ、いいけどさ」
千秋:「けど、本当に特効薬なんてあるの?何かの治験にされただけなんじゃないの?」
智樹:「効果は実証済みなんだって言ってたよ、
日本じゃ二十年後くらいに流通するらしいけど」
誠一:「何じゃそれ!?ヤミじゃねえか!」
智樹:「ヤミじゃないよ!
俺だってまさか二日でカゲが全て消えるとは思わなかったけどさ」
千秋:「なんか未来の薬を使ったみたいね」
智樹:「そうそう、千秋よくわかったね!未来の薬なんだって」
千秋:「…え?」
誠一:「え?」
千秋:「未来の・・・ってどういうこと?」
智樹:「千秋が言ったんじゃん、現代医学じゃ無理って。
・・・あれ、誠一だっけ?」
誠一:「それ俺な!」
智樹:「だから、俺のために未来人が未来の薬を持ってきてくれたの」
智樹の額に手を当て、熱を測り始める千秋とどこかに電話をかけようとしている誠一。
千秋:「・・・熱はないようね」
智樹:「いや、ほんとだって!」
誠一:「…もしもし、救急車を一台、錯乱した若者が一人――」
智樹:「(遮る)呼ばなくったっていいって!」
携帯を取り上げて切る智樹
誠一:「じゃあ、なんで癌が治ったのかもう一度教えてくれるかな?」
智樹:「特効薬で治ったの」
誠一:「その特効薬は?」
智樹:「二十年後くらいに流通するんだって」
誠一:「その薬をくれたのは?」
智樹:「未来人」
もう一台の携帯で電話をかけようとする誠一
誠一:「救急車は・・・っと」
智樹:「呼ばなくっていいって!」
千秋:「でも、治ったんだよね?」
智樹:「うん」
千秋:「どこも痛くないんだよね」
智樹:「大丈夫」
千秋:「本当に?」
智樹:「本当に」
千秋:「思い込みじゃなくて?」
智樹:「思い込みだけでこんなに動けないってば」
誠一:「そりゃそうだ」
千秋:「・・・それならいいよ。
ともくんが元気なら未来人だって宇宙人だって超能力者だって、私はどれも信じる」
智樹:「まあ、本当なんだけど」
誠一:「その本当と思える根拠はなんだよ」
智樹:「根拠??・・・今元気です」
誠一:「そりゃ気のせいかもしれねえじゃん」
智樹:「おいおい」
誠一:「騙されてるんじゃないか?」
智樹:「なんでだよ」
誠一:「なんかに嵌められたとか」
智樹:「騙す理由がないって」
誠一:「そう!理由がないんだ」
千秋:「どういうこと?」
誠一:「仮に・・・、仮にだけど本当に未来からやってきて
癌の特効薬を持ってきたとするよ?癌で苦しんでいる人なんていっぱいいるし、
それこそ医療センターに渡して研究してもらった方が
たくさんの人が助かるってもんだわ。
それなのに智樹だけをピンポイントで助ける理由がわからん」
智樹:「ま、考えるとそうだけど」
千秋:「いいじゃん、結果だけ見ればともくんが助かったことに変わりはないんだし」
誠一:「けどさ、気になるんだよね。なんで智樹が助からなければならなかったのか」
ゆき:「因果があったからだよ」
誠一:「因果?」
奥の扉からゆきが入ってくる
ゆき:「はじめまして、『自称未来人』です」
3人を見つめながら微笑む
智樹:「この人!この人が薬持ってきてくれたの」
千秋:「いつからいたの・・・?てか、今奥の部屋からきたよね・・・」
ゆき:「細かいことは気にしない」
誠一:「気にするって」
智樹:「よかった、どこの人か分からなかったから、まだお礼言ってなかったんだよね」
ゆき:「『未来の人』だよ、ともきくん」
智樹:「未来に帰ったかと思ってた」
ゆき:「顔だけは出しとこうかな、とね」
誠一:「あんた・・・!」
ゆき:「はい?」
誠一:「あんた何者だよ!?」
ゆき:「未来人ですけど?」
誠一:「じゃなくって、なんなのアンタ・・・。
急に降って湧いて、呼んだ覚えはないぞ」
ゆき:「勝手に来たからね」
千秋:「でも、ともくん治ったんですよね。もう大丈夫なんですよね?」
ゆき:「その後の智樹君を直接見たことがある僕が保証しますよ」
智樹:「ホント医者が驚いてたんだから!
昨日のレントゲンと今日のレントゲンでまったく違いすぎるって、
結局癌自体なかったってことで退院できたの。
でもなんか後日精密検査受けなくちゃいけないらしいけど」
誠一:「それで・・・こいつを信じてるの?」
智樹:「ああ」
誠一:「本当に?癌自体がなかったかもしれないのに?」
智樹:「薬飲んでから急に痛みがなくなったんだってば!
それについては疑いようがねえだろ?」
誠一:「偶然かもしんねえじゃん」
ゆき:「えー・・・と、私が胡散臭いと?」
誠一:「なんか怪しいんだよなぁ・・・
偶然を装って智樹に恩売ってるだけじゃねえの?」
ゆき:「そうか・・・そういわれるとは考えなかったなぁ」
誠一:「なんだよ・・・」
誠一に近づくゆき。後ずさる誠一。
誠一:「…なんだよ!」
ゆき:「ちょっと頭揺れるよ」
誠一:「触んなよ!あっ・・・あぁ!・・・あぁぁぁ!」
手で誠一の頭を掴む、誠一は放心している
ゆき:「わかりました?」
千秋:「セーチ?・・・大丈夫?」
智樹:「なにしたの?」
ゆき:「少しだけ僕の記憶を彼にインストールさせてもらいました」
智樹:「インストール?」
ゆき:「人の記憶なんてただの電気信号だからね」
がばっと起き上がる誠一。
誠一:「あんたいい人だよ!」
智樹:「気変わりはやっ!」
誠一:「見たんだよ。この人の記憶!」
千秋:「ごめん、意味わかんない」
ゆき:「簡単に言うと、指先から圧縮した記憶のデータを
誠一さんの神経細胞に送り込んだのです」
千秋:「ごめん、もっと意味わかんない」
智樹:「だろ?意味わかんないことできるから未来人なんだって」
千秋:「ともくん、そんな理由で信じたの?」
智樹:「うん」
千秋:「あ・・・そう」
ゆき:「信じてもらうにはこうやって未来の技術を見せた方が手っ取り早いからね」
千秋:「まあ、ねえ」
誠一:「つーかさ、俺たち恩人なんだってさ!」
千秋:「ちゃんと説明してよ」
誠一:「今するから。えっと、この探偵社でこの人の事件を解決して、
その恩で智樹を助けに来たんだって」
智樹:「俺のために?」
ゆき:「誠一さんにも智樹くんにもお世話になったから。特に智樹くんには…」
千秋:「えっ、ちょっと待って・・・矛盾してない?
ともくんほんとは今頃癌で入院してたんだよ?なのにともくんに世話になったって」
ゆき:「僕の時間軸でも未来の誰かが智樹くんを癌から助けたからだよ」
千秋:「ちょっと待って、本当に理解できない!」
ゆき:「僕が智樹くんを救いに来るのは決まっていた歴史なんです」
誠一:「あれ?恩っていうけど、俺たちが何を解決したのかよくわからない」
ゆき:「具体的内容は消去してから送信したからね。
数年後のことを今から知っているのはおかしいでしょう」
智樹:「よくわかんないけど、
俺を病気から助けに来てくれたことは間違いないんだよね」
ゆき:「そう、それが僕の目的だから」
誠一:「今、智樹を助ける理由がないのは、未来に原因があるからってことか?」
ゆき:「そういうことです」
誠一:「なら納得いく。未来のことならば俺たちは知りようがないからな」
千秋:「そんな先もアルカディア探偵社が残っていることも嬉しいけどね」
ゆき:「…そうですね」
智樹:「でも、未来すごいなあ。
タイムマシンがあったり、人の記憶をパソコンみたいに操ったり」
誠一:「つーか、タイムマシンなんてあっていいものなのか?
歴史変えられるなら滅茶苦茶じゃん。
みんな乱用して意味わかんなくなるんじゃねえの?」
ゆき:「そうはならないよ、第一自分の年齢以上は過去へはいけないからね」
千秋:「そういうものなの?」
ゆき:「はい。『時間順序保護仮説』が有効ですから」
千秋:「はあ…」
ゆき:「なら、ニュートリノってわかる?」
誠一:「知らん」
千秋:「ニュースくらい見なよ」
誠一:「千秋は知ってるのか?」
千秋:「『光より速い物質』・・・だっけ?」
ゆき:「そう、光より速い素粒子」
智樹:「夏か秋くらいにTVでちょっと話題になったよね」
誠一:「嘘だ。俺は知らんぞ」
千秋:「はいはい」
ゆき:「相対性理論にあてはめると、
光に限りなく近い速度になれば時間の流れが遅くなるのです。
じゃあ、光より早くなれるなら?そう、過去に戻ることも可能なんですよ」
智樹:「理論的にはそうだって聞いたことある」
ゆき:「その装置が完成するのが・・・」
誠一:「いつよ・・・」
ゆき:「…まあ、数十年の間には試験的に出来上がるよ」
誠一:「言わんのかい!?」
ゆき:「未来は技術がかなり発展しているってだけ考えてください」
智樹:「因果律って何かで聞いたことあるけど、関係ないの?」
ゆき:「因果律なんて存在しないですよ。
未来を改変してもしなくても、
『した、していない』の二つのパラレルワールドが出来るだけです。
様々な因果が重なった結果が今の姿ですから」
智樹:「タイムパトロールは必要ないってことかな」
ゆき:「ドラ○も○で言うとそういうことだね」
千秋:「セーチわかった?」
誠一:「バカにするな。少しもわからん!」
ゆき:「とはいえ、因果の収束に逆らうのは難しいみたいで、
ほとんど同じ未来に向かってしまうと。
だから、僕が智樹くんを癌から救ったのはある意味必然で、
決まりきったことだったんですよ」
智樹:「ふーん」
誠一:「なんかややこしいけど、あんたは智樹を助けに来てくれた。
それだけは間違いないんだよな」
ゆき:「そういうこと、僕は智樹くんを助けた。
そして未来で僕の事件を解決する、それが歴史に残ればいいんですよ」
智樹:「ねえねえ、他に未来の道具ってないの?」
ゆき:「はい?」
智樹:「だからなんか魔法みたいなことしてみせてよ」
ゆき:「魔法じゃなくて、あくまで技術…」
智樹:「なんでもいいからさ」
ゆき:「そうだねぇ、じゃあ…手を出して」
智樹の手を握る
ゆき:「千秋さん」
千秋:「なに?」
同じく千秋の手を握る
誠一:「なにしてんのさ・・・?」
ゆき:「二人共目を閉じて、リラックスして……。頭の中を空っぽにして…」
智樹:「えっと…」
ゆき:「しゃべらないで。そのまま目を閉じたまま……」
誠一:「なにしてんのさ」
ゆき:「……いいよ、目を開けて…。どう?」
千秋:(智樹)「どうもなにも変わってな………え?」
智樹:(千秋)「なんで私がいるの?」
誠一:「なに?なに!?」
智樹:(千秋)「私がいる・・・」
千秋:(智樹)「なんだよこれ」
智樹:(千秋)「どういうこと・・・?」
誠一:「いや、見てる方には意味わかんねえ」
ゆき:「二人の意識を交換してみました」
誠一:「っていうと?」
千秋:(智樹)「ええええ!?」
智樹:(千秋)「っていうことは、これ、ともくんの身体?」
千秋:(智樹)「意識が入れ替わったってこと?」
ゆき:「その通り」
千秋:(智樹)「うわあ。千秋の目線ってこうなってるのか」
誠一:「お前が智樹か?」
千秋:(智樹)「そうそう、おもしれえ」
誠一:「どうやったんだよ」
ゆき:「正確に言うとパルスをリンクさせて…」
誠一:「やっぱいいわ」
智樹:(千秋)「なんか気持ち悪い」
千秋:(智樹)「俺、一回女になってみたかったんだ。
そうだ!ちょっと全裸で外歩いてくる」
誠一:「あほっ!」
千秋を叩く
千秋:(智樹)「冗談だって」
智樹:(千秋)「私の身体傷つけないでよ!」
誠一:「お前が変なこと言うから」
智樹:(千秋)「私・・・ともくんじゃない」
誠一:「あっ、わり。お前のせいで…」
千秋:(智樹)「いいじゃん。遊ぶくらい」
誠一:「お前なあ」
ゆき:「じゃ、お疲れ様です」
誠一:「おい!?このまま帰るな!」
ゆき:「冗談ですよ」
二人の手を握ると元に戻る
千秋:「もどったぁ!!」
体を確認する千秋
智樹:「あっ!おっぱい揉んどきゃよかった・・・」
誠一:「お前なぁ!」
智樹:「少しくらいいいじゃん」
誠一:「許さん。千秋は俺のもんじゃい」
千秋:「セーチにあげた覚えはないけどね」
ゆき:「でも、おもしろいでしょ?」
智樹:「おもしろかった!
これができるなら尾行とか楽なのに、知らない顔に化けてさ」
ゆき:「そんなことしなくても、顔を変える以外にも
肌や声帯まで変えれる技術はいっぱいありますから」
誠一:「なんかややこしそうだな」
ゆき:「そうでもないですよ。
危ない技術があるということは逆に縛り付けるルールもたくさんあるってことですから」
千秋:「大変だねえ」
ゆき:「この時代に持ち込んだら大変だけどね」
智樹:「あ!未来のこと教えてよ。第三次世界大戦とか起こるの?」
ゆき:「それはまだないですね」
誠一:「何年後から来たとか言えないの?」
ゆき:「言えないです」
千秋:「十年二十年でタイムマシン開発する技術が出来上がるとは思えないけど」
ゆき:「まあ、何とも」
誠一:「この探偵社があと何年続くかとかも言えないんだよなあ」
ゆき:「さあ、どうでしょ?」
智樹:「それくらい言おうよ」
ゆき:「う~ん…」
誠一:「じゃあさ、俺、ちゃんと千秋と結婚するの?」
千秋:「ばか・・・」
ゆき:「しませんよ」
誠一:「………え?」
智樹:「未来の俺、元気?ちゃんと飯食えてるかな」
ゆき:「いや、智樹くんはこの現在から数年後に死んでます」
智樹:「え?」
千秋:「ちょっと待って・・・」
ゆき:「続くかくらいは言っちゃいましょう。
この探偵社はあと五年くらいで倒産しますよ」
千秋:「ちょっと待って・・・!」
ゆき:「恩返しする時がなかったのでこうやって過去へやってきたのですから」
千秋:「ちょっと待ってよ!!」
ゆき:「千秋さんは元気な赤ちゃんを産みますよ。男の子です」
千秋:「そんなこと聞きたいわけじゃない!?」
誠一:「千秋は俺と結婚するわけじゃないんだろ?誰の子だよ」
ゆき:「そんなの智樹くんに決まってるじゃないですか」
智樹:「俺?!」
ゆき:「そうですよ」
誠一:「何言ってんだよ・・・」
ゆき:「事実を言ってるんですよ」
誠一:「そうじゃなくてさ」
ゆき:「あ!誠一さんの未来、言ってませんでしたね。
その数年後からずっと刑務所に入っています」
誠一:「なんでだよ!?」
ゆき:「刺しちゃったから、そこの智樹くんを。
かわいそうな智樹くん・・・せっかく癌から治ったのに」
智樹:「なんで俺が誠一に刺されなきゃいけないんだよ」
ゆき:「もとはといえば君が浮気するからいけないんですよ」
千秋:「…もう、やめて」
ゆき:「千秋さんとの間に智樹くんの子供が出来ちゃったから、
誠一さん嫉妬しちゃって智樹くんを刺したに違いないじゃないですか!」
千秋:「やめてっ!!」
静まり返る
千秋:「なんでそんなこというのよ!!」
ゆき:「事実を言ったまでですよ」
千秋:「違うじゃない!」
ゆき:「今は・・・ね。でも数年後の事実です、真実なんです。
あっ!そうですね、言うならばこれでしょ。真実はいつもひとつ!」
ゆき:「はぁ(ため息)・・・つまらない。なんで黙ってるの?」
誠一:「なにネタバレしちゃってくれてんだよ・・・」
ゆき:「恩返しですよ。これからの未来を教えてあげたんです」
誠一:「そんな未来来るはずがねえ!」
ゆき:「来ますよ」
誠一:「来ない!」
ゆき:「そうですね、そこの千秋さんが浮気しなかったらずっと平和でしたもんね。
千秋さーん、浮気しちゃいけませんよー」
誠一:「お前はもう黙れ!!」
ゆき:「怖い怖い」
智樹:「未来は決まったわけじゃない・・・
だってあなたが俺を治して未来を変えに来たんじゃん」
ゆき:「そうですよ。病気なんかで死なれちゃつまらないですから」
智樹:「どういうこと」
ゆき:「さあねえ。僕にはよくわかりません」
千秋:「なにそれ」
智樹:「なんでこんなこと言うんだよ!」
ゆき:「アナタ達に僕は人生狂わされた。
この探偵社さえなければ僕はこんな事までしなくて済んだのに、
世話になった恩がある…。ええ、そうです。よくよく世話になりましたよ。
・・・だからね、恩返しです。あがいてみればいいですよ。
どうせ未来なんて簡単に変わらないんですから」
誠一:「帰れ…」
ゆき:「ええ、未来に帰りますよ」
誠一:「もう何もしゃべらず帰れよ!」
ゆき:「(笑う)では失礼しました」
言うだけ言って去っていくゆきの後には重い空気が流れている
誠一:「なんだよ、それ」
千秋:「…………」
智樹:「……で、どうするよ」
少しの間
電話のけたたましい音が鳴る
千秋:「セーチ出てよ・・・」
少し面倒そうに電話に出る誠一。
誠一:「・・・はい、アルカディア探偵社。
…はい、ただいま担当のものが席を外していますので・・・。
はい、それは私ですが、先日より担当が変わりましたので。いえ、ご心配なく。 …はい。
あ、少々お待ちを…担当が帰ってまいりましたので今変わります。………ほら」
智樹に受話器を渡す
智樹:「…福田さん?」
誠一:「そう、例の件」
電話を替わる智樹。対応は元気な声で。
智樹:「ただいま変わりました!はい!はい。
奥さまは今のところは家を出る気配もございませんので。
はい。問題ありません。大丈夫です!」
電話を切る智樹。
誠一:「前から思ってたけどさ、根拠のない大丈夫はやめた方がいいと思うよ」
智樹:「なんでさ」
誠一:「大丈夫じゃなかったらどうするんだよ」
智樹:「大丈夫だよ。だって・・・・大丈夫なんだから!」
誠一:「いやいやいやいや!」
智樹:「大丈夫って言ったら大丈夫にするしかないし、大丈夫になるしかないんだよ」
誠一:「根拠がない・・・」
智樹:「だから大丈夫なんだよ」
誠一:「お前のその大丈夫のために俺が何回尻拭いしてきたと思ってんだ・・・」
智樹:「四回!」
誠一:「五回だ!」
智樹:「細かいな」
誠一:「だから根拠のない大丈夫をやめろって…」
智樹:「でも、癌は大丈夫だった」
誠一:「……そうだけど」
智樹:「ちゃんと帰ってきたよ」
誠一:「そうだけどよ」
智樹:「だから大丈夫なんだよ」
誠一:「なにがだよ!」
智樹:「俺は別に千秋に手を出したりしないから」
誠一:「お前なあ」
智樹:「だから誠一は俺と千秋を信じときゃいいのさ」
誠一:「いい加減に――」
千秋:「(被せる)ああああああああーーーーーー!(怒って叫ぶ)」
誠一:「びっくりした、なに!?」
千秋:「セーチ!こっち来て!」
誠一:「なになに!?」
千秋:「ともくんも!」
智樹:「何事!?」
ソファーに座る二人。
千秋:「はい!これから第一回未来会議を始めます。拍手!」
誠一:「なんだよこれ・・・」
千秋:「セーチ!発言の時は挙手する事」
智樹:「はい!(挙手する)」
千秋:「はい、ともくん」
智樹:「これなんですか?」
千秋:「将来を決める大事な会議です。あ、ともくん書記お願い」
智樹:「おっけい」
誠一:「会議って」
千秋:「セーチ。無駄な発言は控えるように」
誠一:「だってよう」
千秋:「だってじゃない!無駄な発言は控える事。いいね?せ・い・い・ちくん!」
誠一:「……はい」
千秋:「ということで未来会議始めます。
議題一、セーチがともくんを刺し殺しちゃう件について」
智樹:「いきなり重いな!?」
千秋:「一番大事だから最初に話すの」
誠一:「俺はそんなことしないっての」
智樹:「はい!(挙手)」
千秋:「はい、ともくん」
智樹:「誠一が俺に嫉妬しなかったらいいと思います」
千秋:「そうね。かっとならなかったら刺すこともないんだし」
誠一:「ちょっと待て!刺すこと前提かよ!?」
千秋:「そんな未来になるって言ってるんだから仕方ないじゃない」
誠一:「それが嘘だとは思わないのかよ!?」
千秋:「思わないよ。だってあの未来人、
私たちを救うためにあんなこと言ってくれたんだし」
誠一:「は?」
千秋:「よく考えたら変なんだもん。本当に私たちを仲違いさせたいだけなら、
あんなこと言わなくても未来変わらなかったんだし。
ともくんを刺し殺すなんて言わなかったら会議を開くことすらしなかったんだよ?」
誠一:「それは、…そうだな」
智樹:「変な話だけど」
千秋:「だからね、あの人はいい人だよ。信じていいと思う」
智樹:「そう・・・かなあ?」
千秋:「それに、あの人が本当に未来人ってことに異論はないよね?」
誠一:「それは、まあ・・・」
智樹:「あんな技術を見せられたらね」
千秋:「だからあの人が嘘は言ってないってことを前提に話をするの」
誠一:「で、俺が嫉妬しなかったらいいってか」
千秋:「そうね。それで結論かな」
誠一:「待てい!その前にこのバカが千秋に手を出さなかったらいい話じゃないか」
智樹:「俺?」
誠一:「そう!未来で何があったか知らんけど、なに人の女に手ぇ出してんだよ!」
智樹:「誠一、それ時効…じゃなくて、未遂…じゃなくて
…未来での事、どう表現するんだろ?」
千秋:「つまり、ともくんが私に惚れなければいい話ね」
智樹:「それ無理だよ、だって俺今でも千秋のこと好きだもん」
誠一:「なにぃぃぃぃ!!!」
千秋:「あら、初耳」
智樹:「初めて言ったんだから、仕方ないだろ」
誠一:「ダメだ!無理だ!身の程をわきまえろ!!」
智樹:「ひでぇ言いよう」
千秋:「じゃあ、セーチが我慢するしかないんじゃない?」
誠一:「なんで!?」
千秋:「私が正式に、ともくんとくっつけばすべてうまくいくような?」
誠一:「本末転倒じゃねえか!そしたら俺刺すよ?刺しちゃうよ!?」
千秋:「どうすればいいのよ・・・」
誠一:「千秋がふらふらしなかったらいいだけだろ」
千秋:「私?」
誠一:「そう!ずっと俺について来いってことだよ」
千秋:「そう・・・ねえ」
智樹:「でも、あの人誠一と千秋は結婚しないって言ってたよね」
誠一:「お前な・・・水を差すなよ」
智樹:「包丁刺すよりいいだろ」
誠一:「嫌味かそれ!嫌味なのか?」
千秋:「確かに言ってたよね。私が妊娠するのいつかは知らないけど」
誠一:「ちょっと待て・・・一回まとめよう。
とりま、あの未来人が嘘を言ってない事、
例の未来が現実に起こったことってのを前提にした話な」
整理をするよう促す誠一
誠一:「数年後にあの未来人の事件に関わる、そこまでは問題ないはず。
で、その数年後に千秋が妊娠をする、父親は智樹。
そのとき俺は千秋とは結婚していない」
智樹:「子供の名前何にしようか?」
誠一:「まだ確定してないっての!」
千秋:「続けて」
誠一:「で、俺が嫉妬・・・して智樹を刺し殺す。
あいつが何年後の未来から来たのかわからないけど、
多分その時代まで俺は刑務所に入ってる。千秋は無事に男児出産」
智樹:「ちょっと待った!」
誠一:「なに?」
智樹:「誠一、殺人罪で刑務所行きだよね?
なら法律が変わってなければ実刑で六年以上の懲役なわけだ」
千秋:「そうね」
智樹:「誠一これ初犯?今までに誰かバラしちゃったこととかない?」
誠一:「あるわけないだろ!あ・・・でも、職業柄犯罪まがいはいっぱいしてるわ」
智樹:「無差別でも強盗でもないわけだから、推定でも懲役六から十五年ってとこか」
千秋:「何が言いたいの?」
智樹:「いや、あの未来人がいつの時代から来たのか予想できるかなって」
誠一:「まじか!」
智樹:「っで、そのままでいくと六年後から十五年後、かなって」
千秋:「でも、あの人、見た目二十五から三十五歳ってくらいじゃなかった?」
誠一:「ってことは…」
智樹:「今現在のあの人は、生まれる前か大きくて十歳ってとこかな」
誠一:「あー・・・んなことわかってもしゃーねぇんだよ!」
智樹:「そうかな、まだ生まれてないかもっていうのがなんか引っかかるんだけど…」
千秋:「数年後にアルカディア探偵社に世話になるってところ?」
智樹:「そこだ!そんな若い客が来るなんて今迄になかったのに…」
誠一:「話を戻そうぜ」
千秋:「そうね」
智樹:「でも…」
誠一:「わかっても仕方ないことだろ?それになんか整形っぽいのやってる臭いし、
簡単に顔や声色まで変えられるんなら本当にあの見た目年齢なのかもわからねえし。
本当は百歳の爺かもしれないんだぞ」
智樹:「それも・・・そうか」
誠一:「大事なのは今なんだよ!未来に帰ったやつのことなんかより今、
そして俺たちの未来が大事なんだ。はき違うなよ」
智樹:「……うん」
誠一:「俺たちは未来を知ってしまったんだよ。
でも、知ってるから未然に防げる・・・変えられるんだ!
智樹は千秋に手を出さなかったらいい、千秋は誘いに乗らなかったらいい。
俺は……万が一のことがあっても人を恨まなかったらいい。未来は変えてもいいんだよ!変わらないはずがないんだよ!なぜなら・・・・」
千秋:「私達が生きているのは『今』だから」
誠一:「…そうだ」
智樹:「綺麗事言ったって!」
割り込むように電話が鳴り、受話器をとって話始める智樹
智樹:「はい、アルカディア探偵社!はい、私ですが。……え?前任を…。
はあ、少々お待ちください。………誠一、福田さん。前任の担当に代われってさ」
誠一:「俺・・・?まぁいいか」
智樹から受話器を受け取る
誠一:「はい、お電話変わりました。……はい、……はい……」
智樹は千秋の元へいく
智樹:「…………じゃないかな」
千秋:「………え?」
智樹:「もしかして、あの未来人、俺たちの子供なんじゃないかな」
千秋:「あ……」
誠一:「…わかりました。場所は?国際ホテルの…。
今すぐで?では、30分ほどでまいります。はい、…はい。……智樹!」
智樹:「なに?」
誠一:「一緒に行くぞ!仕事、現実」
智樹:「ああ、わかった」
誠一:「会議は中止な!ってか終わり。
例の野郎は未来に帰ったし、もう二度と来ることもないだろ?」
千秋:「う・・・ん・・・」
誠一:「車とって来るから。智樹、レコーダー忘れるなよ」
智樹:「わかってるって。先行ってて」
誠一:「千秋にちょっかい出すなよ?」
智樹:「……ああ」
車を取りにいく誠一
智樹:「ちょうどよかった、二人になれて」
千秋:「…どういうこと」
智樹:「辻褄が合うんだ、まだ生まれてないかもしれないのに俺たちに恨みがある。
依頼は受けてないけど、俺たちには『生まれてきた恩』がある。
そして、それを恨んでいる。生まれ出たことを呪っている。
あいつは俺たちの子供なんだと思う」
千秋:「……」
智樹:「自分が生まれたせいで俺は死に、誠一は投獄中。
彼自身がどんな不幸な人生歩んできたかはわからないけど、
生まれたことを憎んでるかもしれない」
千秋:「なかったことにしたいのかも?」
智樹:「え?」
千秋:「こうして私たちに伝えてともくんとの間に子供を作らないことで、
自分自身をなかったことにしたいのかもしれない」
智樹:「……確かに」
千秋:「確かめようがないけど」
智樹:「これ、誠一には秘密ね」
千秋:「うん」
智樹:「じゃあ、俺行くから」
千秋:「あ……」
智樹:「何?」
千秋:「……セーチと仲良くね」
智樹:「いつも通りじゃん」
誠一の元へ向かう智樹
千秋:「どうして……」
ゆき:「どうしても」
千秋:「いたの」
ゆき:「いたよ」
千秋:「やっぱり」
ゆき:「そんな気がしてた?」
千秋:「うん」
ゆき:「そう」
いつの間にかソファーに座っているゆき
ゆき:「未来人だけどなんか質問ある?」
千秋:「名前は?」
ゆき:「それは言えない」
千秋:「年齢は?」
ゆき:「それも言えない」
千秋:「あなたはだぁれ?」
ゆき:「未来人だよ」
千秋:「何も答えてくれないのね」
ゆき:「応えられる限りは答えるさ」
千秋:「あなたの目的は?」
ゆき:「……未来を変えに来た」
千秋:「なんで」
ゆき:「未来は不幸だからさ」
千秋:「この探偵社があることが不幸なの?」
ゆき:「ちょっと違うけど。ある意味そうかもね」
千秋:「三人が一緒にいることがあなたの不幸へつながるのね」
ゆき:「そうかもね」
千秋:「ごめんね」
ゆき:「なんで謝るの」
千秋:「幸せでごめん。私、今仕事も楽しいし、すごい幸せなんだ」
ゆき:「そうなんだ」
千秋:「三人でいることが楽しいの。このままずっと続けばいいと思う」
ゆき:「それは無理だった」
千秋:「わかんないよ」
ゆき:「わかるよ」
千秋:「いい手があるかもしれない」
ゆき:「そうかもね」
千秋:「あなたも幸せになる方法が」
ゆき:「それはない」
少しの沈黙
千秋:「どうして断言できるの?」
ゆき:「僕はもう幸せになることが出来ない」
千秋:「わかんないよ」
ゆき:「わかるんだ」
千秋:「なんで?」
ゆき:「……なんでもない」
0:間
千秋:「……どうしてともくんを助けたの?」
ゆき:「癌のこと?」
千秋:「癌のままならこんなことにはならなかった。
つまり、あなたの云う未来とは変わっていたはずなのに、あなたはそうしなかった。
助けることで変わらない未来を作ってしまった。
未来を変えたいって言ってるのに、これ矛盾してるよ」
ゆき:「そうだね」
千秋:「そうだねじゃなくって」
ゆき:「なんでだろうね。使命、かな」
千秋:「あなたはいい人だと思う」
ゆき:「僕が?」
千秋:「そう」
ゆき:「無意味に未来を告げて喧嘩するように仕向けて、あなたたちを混乱させた。
そんな僕がいい人?」
千秋:「無意味じゃない。だって無意味ならそう仕向ける必要がないもの」
ゆき:「………」
千秋:「あなたは未来を変えようとしている。
私たち三人がうまくいくように、変な仲違いしなくて済むように話をする機会をくれた。絶望しなくて済むようにしてくれた。あなたは私たちのために動いてくれている」
ゆき:「それ、買い被りだよ」
千秋:「他に理由が思いつかない」
ゆき:「僕がいい人?あなたたちの為?バカにしないでください。
僕は自分のためにしか動かない。自分のことしか考えない。
僕はそのためにタイムトラベルした!」
千秋:「ねえ…」
ゆきの腕を触る千秋
千秋:「嘘・・・ついてるよね?」
ゆき:「千秋……」
千秋:「あなたは嘘をついている」
ゆき:「違う」
千秋:「無理しないで」
ゆき:「無理なんかしていない」
千秋:「じゃあ、なんで……」
ゆき:「僕は…!」
忘れ物を取りに部屋に戻ってくる智樹
智樹:「千秋から離れろ」
ゆき:「……なんでここに?」
智樹:「それはこっちのセリフだろ。帰ったんじゃなかったのか?」
ゆき:「…まあ、いろいろとね」
智樹:「エロエロと、はしてないよな?」
千秋:「それはないってば」
智樹:「それはない、か。
そうだよな・・・だって、千秋はあんたの母親、そうなんだろ?」
ゆき:「……は?」
智樹:「あんたは俺と千秋の子供なんだろ?
未来から来て、俺たちが結びつかないように仕向けに来た。違うか?」
ゆき:「……違う」
智樹:「何が違うんだ?」
ゆき:「…………」
智樹:「違うんなら正体明かしてみろよ。
ほら、待ってるからさ。自己紹介してみろよ!」
千秋:「やめてよ、ともくん!」
智樹:「やめないよ。今まで平和だったのにこいつが崩したんだ。
こんなんなるなら俺、癌のままの方がどんだけよかったことか」
ゆき:「あの痛みが続けばと?」
智樹:「ああ、心が痛いよりましだ」
ゆき:「くっさ・・・」
智樹:「なんだと」
ゆき:「癌でどんなに苦しんだのか知らないのに、よくそんなことを言う。
苦しみすぎて見かねた誰かさんが未来から助けに来たっていうのに」
智樹:「何の話だ」
ゆき:「未来の話だよ」
智樹:「あんたの話じゃないのかよ」
ゆき:「ええ、僕の話です。僕の世界線ではね。
智樹くん、あなたを助けるためにそこの千秋さんが助けに来てくれるんですよ」
智樹:「…は?」
ゆき:「言ったでしょ。未来は変わるって。簡単に未来は変わってしまうんです」
智樹:「何言ってるんだ」
ゆき:「とある時間軸の世界では、智樹くんはこんなにすぐは治りません。癌ですから。苦しんで苦しんで苦しんで・・・!誠一さんも千秋さんも苦しんで・・・。
そして智樹くんは死んでしまいます。
それを見かねた千秋さんはどう思ったんでしょうかねぇ。
更に数十年後、タイムマシンが完成したら、
千秋さんは真っ先に過去へタイムスリップして智樹くんを助けに来ました。
僕のように癌の特効薬を持って、すべてをかなぐり捨ててまで!
それで癌が治って助かったのが僕の時間軸の智樹くんです。僕はそれが嫌だった。
千秋が行くことはないのに!だから僕が行くことにしたんです。
僕が来なければ千秋が飛ぶことになる、
僕が千秋を救うにはこれしか道がなかったんですよ。
僕は・・・三人を救うためにこの時代に来たんじゃない!
千秋を救うために、千秋を失わないためにここに来たんですよ!」
智樹:「帰れよ…」
千秋:「ともくん…」
智樹:「帰れよ!帰れ!!帰ってくれ!もう目的は果たしたろ?
だったら未来にさっさと帰れってくれよ。これ以上俺たちに何をさせたいんだ!?」
ゆき:「帰れないんですよ」
智樹:「…は?」
ゆき:「だって、タイムマシンなんて存在しない。
ただ、自分を過去へ飛ばすことしか出来ない装置を使ったんですから」
千秋:「過去にしか…?」
ゆき:「未来に行くのは無理です。タイムトラベルって残酷ですよ。
だって、僕の身体はここにあっても僕の存在はここにはない。
戸籍もないし、生きても死んでも意味がない。
僕が存在した証なんてない。もともとこの時代に僕はいないのだから」
智樹:「なんでそんなになるのにここに来たんだよ」
ゆき:「お前は千秋にもそんなことさせたいのか!?」
智樹:「…………」
ゆき:「僕にはこれしか思い浮かばなかった。千秋だけは幸せにしたかった!
だから飛んだ。お前を救いに来た・・・
僕がどんな思いでこんなに憎いお前を救ったと思う!
どれだけ悩んだと思う!お前が……!」
智樹:「あんた……」
ゆき:「この前言ったことは僕の世界線では事実だ。
千秋は身ごもり、誠一は智樹を刺して刑務所へ、
お前が助かった後の歴史なんてそんなもんだ・・・
助かって人を不幸にする存在なんだ。・・・だからお前は、本当は消えた方がいいんだ」
千秋、無言でゆきをビンタする
ゆき:「ほら、やっぱり・・・こんなんだから僕は歴史を変えたいんだよ」
そこへ誠一も戻ってくるが、ゆきの存在は消えている
誠一:「智樹、まだか~? レコーダーとって来るのにどれだけ時間かかってるんだよ 」
智樹:「………」
誠一:「智樹?」
智樹:「ああ、今いくから」
誠一:「なんか変だぞ。もしかしてお前千秋を襲ったんじゃ…」
智樹:「絶対にない!」
誠一:「……ならいいけど」
智樹:「俺はそんなことは絶対にしない・・・」
千秋:「…ともくん」
誠一:「なに、この空気」
智樹:「誠一・・・」
誠一:「なんだよ」
智樹:「お前、さっさと千秋と結婚しろよ」
誠一:「なんだよ、急に。式は挙げないぞ。身内だけで済ますぞ」
千秋:「ともくん・・・!」
智樹:「ほら、あいつが言ってたじゃないか。誠一と千秋は結婚しないって。
それで何の間違いかおれとできちゃって、お前が狂うって」
誠一:「ああ、そういえば」
智樹:「だからさ、ほら、今すぐ二人が結婚しちゃえば未来変わるだろ。
変な未来は起こらないだろ?」
誠一:「なんだよ、急に。式はないけどご祝儀は五万円でいいぞ」
千秋:「ともくん!」
智樹:「な、千秋もいいだろ?しちゃえよ結婚。で三人でずっと探偵社続けていこうよ」
千秋:「それ、違うよね」
智樹:「なんでもいいんだよ。千秋が幸せならそれでいいんだよ」
誠一:「そうだな。千秋どうする?千秋・・・?」
千秋:「・・・ねえ、セーチ」
誠一:「何?」
千秋:「私たち、このままでいいのかな?」
誠一:「なにいってんの」
千秋:「なんとなく」
誠一:「さっき話したじゃん。ほら、未来会議!いつも通りに過ごすって。
変な嫉妬とかしなきゃいいだけの話だろ?よく考えれば簡単なことじゃないか」
千秋:「そうだけど…、なんか怖いよ」
誠一:「俺だって怖いよ」
千秋:「セーチが?」
誠一:「だって俺、刺しちゃうんだぜ智樹を・・・」
千秋:「………あ」
誠一:「今の俺には想像もできないけど、
開業する前からずっと一緒だったこんなに仲のいい智樹をさ・・・。
殺したいくらい憎んで刺しちゃう俺が未来にいるんだよ・・・
ほんとに智樹の事刺すのか?俺ってそういうやつなのか…?」
千秋:「大丈夫だよ」
誠一:「千秋…」
千秋:「セーチなら大丈夫!そんなことにはならないよ」
誠一:「…前から思ってたけどさ、千秋・・・俺のこと好きじゃないだろ?」
千秋:「え・・・何言ってんの?」
誠一:「別に言いたくないならいいけどさ。
なんつーの、千秋・・・俺に興味ないだろ、俺じゃなくてもいいっていうか・・・」
千秋:「そんなわけないじゃない!」
誠一:「でも・・・浮気するんだよな」
千秋:「してないよ!」
誠一:「するんだろ?未来で・・・」
千秋:「これ以上言うと怒るよ・・・?」
誠一:「俺はずっと怒ってるけどな!」
千秋:「…………」
誠一:「なにが『セーチが嫉妬しなかったらいい』だよ!
『私がともくんと正式にくっつけばいい』だよ!」
千秋:「それは!・・・別に深い意味で言ったわけじゃ――」
誠一:「(遮る)軽々しく言うなって言ってんの!」
千秋:「…ごめん」
誠一:「あー、もう!これで余計嫌われるの確定じゃん」
千秋:「私・・・、セーチ好きだよ」
誠一:「………で?」
千秋:「他に何もないよ。それ以外言うことないもん」
誠一:「証拠見せてよ」
千秋:「証拠?」
誠一:「誠意」
千秋:「・・・しょうがないなあ」
誠一に近寄る千秋
智樹:「俺がいること忘れてない?」
声に反応して離れる
千秋:「わっ・・・・忘れてなんか、なななないよ!!」
誠一:「(ため息)邪魔するなよ智樹~・・・」
智樹:「は?何言ってるかわからねえけど??」
千秋:「こっ・・・コーヒーいる?」
智樹:「お茶のほうがいいな」
千秋:「お茶ね!」
智樹:「あっ!千秋」
千秋:「なに?」
智樹:「ちょっと銀行行ってきてくれる?振り込んできてほしい所があるんだけど」
誠一:「もうすぐ外出るし、その時じゃだめなのか?」
智樹:「ん~、誠一とは例の福田さんのことで話したいことがあるから」
誠一:「そうか」
千秋:「うっ・・・うん、分かった。はい、お茶」
智樹:「ありがと」
千秋:「じゃぁ、ちょっと行ってくるから。
なんかついでに買ってきてほしい物あれば連絡頂戴ね」
言うと外にでかけていく
誠一:「俺に話しってなんだよ?」
智樹:「ああ、福田さんの件は嘘」
誠一:「嘘かよ!」
智樹:「でも、誠一に話があるのは本当」
誠一:「ややこしいやっちゃなあ・・・なんだよ?」
智樹:「千秋・・・お前と結婚する気はあるのかな?」
誠一:「さぁな、でも俺は千秋に愛されていない気がする・・・」
智樹:「大丈夫だよ、千秋はちゃんと誠一を選ぶから」
誠一:「どうだか…、てかお前急にキャラ変わったな」
智樹:「そりゃまぁ・・・、あんな現実を見たらね」
誠一:「言いたいのはそれだけか?さっさと仕事済ましちまおうぜ」
智樹:「あっ!あと一個。俺、ここ辞めてもいいかな?」
誠一:「急だな!?ダメに決まってんだろ、ドアホ!」
智樹:「だよなぁ・・・」
誠一:「お前が辞めたら誰が『例の奥様』の見守りするんだよ」
智樹:「それは適任がいるから」
誠一:「お前以外の誰が――」
智樹:「(被せる)俺の代わりに雇ってもらいたい奴がいるんだ」
誠一:「初耳だぞそんなの」
智樹:「まぁ、後継ぎになるとは限らないけどね」
誠一:「はぁ?」
智樹:「あとさ、お前のつてで戸籍って手に入らないかな?」
誠一:「ちょっと待て!不審な外人さんはお断りだぞ!?
俺の英語のレベル知ってるだろ・・・」
智樹:「大丈夫だって」
誠一:「お前の大丈夫は信用ならん!」
智樹:「俺の失敗は必ず誠一が救ってくれる、だから失敗しても大丈夫なんだ」
誠一:「なんだよお前、そんなに辞めたいのかよ・・・?」
智樹:「辞めたくないし、ずっとここにいたいさ!
ずっと三人で…こんなバカなことやっていたいさ」
誠一:「……例のこと気にしてんならお前を辞めさせるわけにはいかん。
お前は何もしないし、俺は誰も刺さない。
さっき話したじゃねえか、なかったことにするなよ・・・。」
智樹:「それだけじゃないしその事でもないんだよ・・・俺は千秋を救いたいんだ」
誠一:「意味わからねえ」
智樹:「俺・・・わかっちゃったからさ、世界が俺を中心に回ってるって」
誠一:「なんだよ、それなら太陽系は俺を中心に回ってるぞ?」
智樹:「そんな話じゃなくってさ」
誠一:「ともかく、勝手にいなくなるなよ。そしたら、千秋も……俺も悲しむ」
智樹:「……ばか!」
誠一:「なんだって?」
智樹:「俺がどんな気持ちで自分を殺してんのかわかってんのか!」
誠一:「わかんねえよ!?なんで殺しちゃってんのよ。ちゃんと説明しろ」
智樹:「もういい!」
誠一:「おい!」
智樹:「仕事!ちゃっちゃと済ませて、ちゃんと帰って来るから!」
誠一:「何キレてんだよ!」
智樹:「キレてるのはおまえだろ?」
誠一:「そりゃ意味わかんねえからだろ!」
智樹:「だからもういいっていってるだろ!」
踵を返して事務所を後にする
誠一:「智樹!!」
呼び止めようとするが、止まってはくれない智樹
誠一:「・・・なんで怒ってんだよ」
誠一も事務所を後にする
誰もいない部屋の中央にゆきが佇んでいる
ゆき:「僕って不幸の星の下に生まれてきたんだよね・・・。
なんかむしろ幸運って勘違いしそうなくらい。
僕さ、何回か死にそうな目に合ってきたけど、いつも生き残ってるんだ。
大きな事故も病気もしたことあるし、人に恨まれて刺されちゃったりもしたことある。
でね、そのたびに・・・人が悲しい目にあうんだ、僕の事なのにね。
僕が幸運な目に合うと、必ず誰かが不幸になる。
そんな不幸の星の下に生まれてきたんだ」
一呼吸置く
ゆき:「そして僕は未来から過去の時代にやってきたけど、
・・・やっぱりこの星からは逃れられないみたい。だってさぁ・・・聞いた?
あの智樹くんが話してたの、きっと僕のことだって。
戸籍を与えて、多分あの探偵社に入れちゃおうなんて思ってるんだって。
バカじゃないの?偽善じゃない?それで自分は出ていくつもりなんだよ?
誠一じゃないけど、意味わかんない!
自己満足の極みだよね、こんな正体不明で紛らわしい僕のために・・・」
悲しく嘲笑う
ゆき:「こんなアホで不幸な奴なんか他に知らないよ。
それで傷つくのは自分だけだって信じてる若者は怖いねぇ・・・。
他人がどんな気持ちになるのか考えてもいない!
誠一と千秋がくっついて自分がいなくなったら例の不幸な未来は起こらないとか、
ついでに見ず知らずの僕のことまで面倒見ようとしていて、
皆幸せになれると信じてるんだから・・・。
どうです?こんな偽善見ていい人だなんて思います?バカらしい。
こんなんだから人を不幸にするんだ!自分だけ幸せなんだ!僕はこんなやつ嫌いだ!
・・・若くて青クサい・・・そんなあいつが大っ嫌いだ!」
所用をを済ませて戻ってきた千秋がゆっくり入ってくる
千秋:「はい!私、独り言しゃべります!・・・私は二人とも大好きです。
まあ、セーチとは一応恋人ってなってるけど、
そんなこと関係なく、ともくんのことも大好きです。
千秋:二人がいなかったらここは成り立たないんです。
三人だから私は楽しくいられるんです。・・・だから誰かに聞きたいんです。
私は卑怯ですか?私は鬱陶しいですか?私は……おかしいですか?」
ゆきの方へと顔を向ける
千秋:「ねえ、あなた…」
ゆき:「なに?」
千秋:「私に価値なんてあると思う?」
ゆき:「あるよ」
千秋:「本当に?」
ゆき:「少なくとも僕よりはあるよ」
千秋:「そうかな?」
ゆき:「そうだよ」
千秋:「本当に大丈夫?」
ゆき:「大丈夫」
千秋:「そっか、よかった…」
ゆき:「君にそんなこと言われたら…」
千秋:「……はい!」
ゆき:「えっ・・・なに!?」
千秋:「第二回未来会議始めます。拍手!」
ゆき:「未来会議?」
千秋:「これからについて話し合うの」
ゆき:「これから?」
千秋:「そう、これからを話すの。君はこれからどうするの?」
ゆき:「どう…しよっかな。特に考えてなかった」
千秋:「君ぃ、会議前に資料を集めときなさいって前から言ってたでしょう!」
ゆき:「…ごめんなさい」
千秋:「これからについて話せないんなら仕方ない。君の過去を話しなさい」
ゆき:「過去を?」
千秋:「ここに来るまでの君の過去を。それはきっと私たちの未来だから」
ゆき:「……千秋が好きだったんだ」
千秋:「私?」
ゆき:「一回もまともに言えなかったけど…。ずっと千秋が好きだった」
千秋:「それが君の過去なの?」
ゆき:「僕の過去は、それが全てだった」
千秋:「私を好きだった?・・・それだけ?」
ゆき:「そう、それだけ」
千秋:「あなたは私の子供なの?」
ゆき:「…違うよ」
千秋:「…だよね」
ゆき:「僕は千秋とは何の関係もないもの」
千秋:「関係あるよ」
ゆき:「ないんだ」
千秋:「あるよ!だってキミは――」
ゆき:「(被せて)何者でもないんだ…!」
会話を遮断しようとする。。。。
千秋:「質問します」
ゆき:「なに?」
千秋:「あなたの目的は?」
ゆき:「未来を変えに来た」
千秋:「あなたの年齢は?」
ゆき:「もう…85歳になるよ」
千秋:「あなたの名前は?」
ゆき:「僕は――」
千秋:「(被せて)綾瀬智樹!」
ゆき:「っ!!」
千秋:「あなたは未来のともくんでしょ?」
ゆき:「…知ってたんだ」
千秋:「やっぱり関係あるじゃない」
ゆき:「僕は千秋と関わっちゃダメなんだよ」
千秋:「過去に来てまで関わろうとしたじゃない」
ゆき:「関わりたくなかった」
千秋:「本当にそうなの?」
ゆき:「特効薬を渡したら静かに消えるつもりだった」
千秋:「でも消えなかった」
ゆき:「消えるべきだったのに」
千秋:「消えなかったから、今、君はここにいるんだよ」
ゆき:「…あんまりにも懐かしかったから」
千秋:「そう」
ゆき:「あんまりにも羨ましかったから・・・」
千秋:「うん」
ゆき:「千秋が・・・」
千秋:「君はやっぱりともくんなんだね」
ゆき:「…ああ」
千秋:「自分の年齢以上はタイムトラベルはできないって話、覚えててよかった。
君を間違わずに済んだ」
ゆき:「……間違えたままがよかったのに」
千秋:「ありがとう」
ゆき:「何にお礼を言ってるの?」
千秋:「ともくんを助けてくれてありがとう」
ゆき:「彼の為じゃない。自分のためだから」
千秋:「それってどっちにしても、ともくんの為じゃない」
ゆき:「…そうかもね」
千秋:「君の事を聞きたいな」
ゆき:「僕の?」
千秋:「未来の智樹の事が聞きたい。君が来た理由を聞いときたいの」
ゆき:「だめだよ」
千秋:「なんで?」
ゆき:「聞けばきっと後悔する」
千秋:「しないよ」
ゆき:「聞けばきっと嫌いになる」
千秋:「ともくんを嫌いになったりしないよ」
ゆき:「…癌だったんだ」
千秋:「うん…知ってる」
ゆき:「辛くて、長い闘病生活だった。どんどん動ける個所が少なくなっていき、
手先の感覚もなくなって、眠れない日々が続いた・・・。
自分のことしか考えられなくなって、誠一や千秋を泣かして。
・・・そんな自分にまたイラついて迷路に迷い込んだ自分を呪った。
・・・そう、呪ってたんだ・・・病気や自分、この世の全てに」
千秋:「…そう」
ゆき:「癌が発覚してから一年位かな・・・?
一人の老婆が訪ねてきた事があって、僕を見て泣きそうな顔で笑ってた、
誰かも知らないその老婆は微笑みながら『間に合った』って言ったんだ。
その顔が本当に嬉しそうで、そして誇らしそうに見えたのを僕は忘れられない。
・・・それが未来の千秋だってわかったのは二年後の事。
癌の特効薬の開発が進んでいるというニュースを見て、
未来の存在をふいに知ってしまったから・・・。
でも千秋がそれからどうなったかは僕の時間軸では調べることはできなかった・・・。
探偵のつてを使って血眼で探したけどダメだった。
だから自分の傍にいる千秋を大事にしようと、守るんだって決心した・・・。
いや、違う!千秋を自分のものにしたかったんだ・・・」
千秋:「ありがとう」
ゆき:「…え?」
千秋:「そこまで想ってくれてありがとう」
ゆき:「…違うんだ!」
千秋:「何が?」
ゆき:「僕は、やっちゃいけない事をしたんだ…」
千秋:「…子供が出来たこと?」
ゆき:「違う…、千秋――」
千秋:「(被せて)もういいから、謝らないで」
ゆき:「・・・三年前、この時代からは四十年以上後になるけど、
ブラックホールを人工的に作成する実験に人類は成功するんだ。
そこでは時間を超越する特異点に到達することが出来る。それで知ったんだ・・・!
計算上過去には行けるけど、未来に戻ることは出来ない事に」
千秋:「…うん」
ゆき:「その時に千秋の事が頭をよぎった。
老婆の千秋、・・・顔も変えもせず、ありのままで僕に特効薬を持ってきてくれた千秋、彼女は未来に帰る事は出来なくて、それを知った僕は怖くなった。
僕にはそんな価値はないのに・・・、
君が僕を救う為だけに全てを捨ててくれるのを知ったのに・・・
救われた僕は君を不幸にしかできなかったのに・・・。
だから、タイムトラベル実験のパイロットにすぐに立候補した。
選ばれるのは分かりきっていたし、以前は千秋が選ばれたから。
それで君を救い、君が幸せになるように・・・僕はここの時間軸を選び、
もうどの時空にいる千秋も過去へ行かなくて済むように仕向けたんだ」
千秋:「私は幸せだよ」
ゆき:「…千秋」
千秋:「今のままで幸せなの。探偵社を続けていくことが幸せなの」
ゆき:「……」
千秋:「未来のともくん、現在(いま)のともくんを救ってくれてありがとう。
君のおかげで私はこの幸せにつかることが出来るの。君が未来を守ってくれたの。
君がいたから」
ゆき:「(被せて)その、言葉が聞きたくて僕は…、僕は…」
千秋:「私のためにありがとう」
ゆき:「千秋・・・」
ゆきを優しく抱きしめる
間
智樹の部屋へと場面は変わる
ゆき:「やぁ、智樹くん」
智樹:「お前は……!」
ゆき:「頼みがあるのですが」
智樹:「頼み?あぁ、いいよ」
ゆき:「まだ何も言ってないけど?」
智樹:「ここで働くといいよ、戸籍は俺がなんとかする。
誠一はいい奴だし、千秋はマジ千秋だし、なんとかやっていけると思う。
どこも行かなくていいんだよ、だって……」
ゆき:「智樹くんは『優しい』ですね」
智樹:「だってお前はさ…」
ゆき:「ずっと…」
智樹:「え?」
ゆき:「ずっと考えてたんだよ・・・どうすれば千秋が幸せになれるかって」
智樹:「何言ってるんだよ」
ゆき:「これしか思いつかなかったんだ・・・」
智樹:「おい、お前…」
ゆき:「…さようなら」
懐からナイフを取り出し、自分の腹に突き刺す
智樹:「なにやってるんだよ!」
ゆき:「これで、いいんだよ・・・」
智樹:「何言ってるんだよ、救急車!」
ゆき:「智樹くん、近くに・・・来てくれないかな・・・」
智樹:「なに・・・?」
ゆき:「最後に、伝えたいことが」
智樹:「最後っていうなよ!」
ゆき:「ありがとう…」
智樹:「おい!まだ倒れるな!」
0:ゆきに駆け寄る智樹。
ゆき:「智樹・・・くん・・・」
智樹の額をつかむゆき。
智樹:「なっ!おい、何して――」
ゆき:「(被せて)ありがとう…」
智樹とゆきの人格が入れ替わる。
智樹:(ゆき)「…ありがとう智樹、お人好しでいてくれて」
ゆき:(智樹)「…どういう…ことだよ」
智樹:(ゆき)「僕はね、今度こそ僕の手で千秋を幸せにしたいんだよ」
ゆき:(智樹)「この体は…」
智樹:(ゆき)「この肉体もらうね、千秋さんは任せてください。
臆病で逃げたがりの智樹君はもうすぐいなくなるんですね。残念です」
ゆき:(智樹)「かえ・・・せ・・・」
智樹:(ゆき)「だめですよ、あなたは人を不幸にする。
まだ自覚ないんでしょ?人の好意の上でしか生きてないことに」
ゆき:(智樹)「お前は…」
智樹:(ゆき)「せっかくだし、事実を教えてあげるよ。
僕が最初に来た時言ったあの話、
誠一が嫉妬して智樹を刺して刑務所へって言うあれ、う・そ♪」
ゆき:(智樹)「ぐっ・・・くそ・・・」
智樹:(ゆき)「本当はね、嫉妬をするのは君の方だよ。
誠一との結婚が決まった千秋をどうにか奪いたくて狂って刺しちゃうの。
誠一の最後の言葉覚えてるなあ『千秋に赤ちゃんが出来たんだ』って嬉しそうな顔で。
そうそう、智樹くん、あなたは千秋さんにはなんにも手を出してないよ。
狂うほど欲しいのに手を伸ばさなかったから。
欲しいものがあるとすぐ自分から遠ざけるのは悪い癖だ」
ゆき:(智樹)「な・・・んで・・・」
智樹:(ゆき)「だけど、それも終わりだよ。これから僕が智樹として頑張るよ。
必ず千秋さんを幸せにするから陰ながら見守っていてください」
ゆき:(智樹)「…お前は俺だろうがっ!」
智樹:(ゆき)「あぁ、…気づいてたんだ」
ゆき:(智樹)「……もど・・・・せ」
智樹:(ゆき)「それは……無理っ!」
ゆきの腹を思いっきり蹴る智樹。
ゆき:(智樹)「ぐぁ・・・」
智樹:(ゆき)「…………はは。ははは……はははははは!」
それから時は過ぎ、誠一と智樹はパソコンを開き机を挟んで会議中。
誠一:「だから、クラッキングはダメだってば」
智樹:「なんでさ?」
誠一:「犯罪だから駄目なの!」
智樹:「今まで気にしてなかっただろお前」
誠一:「まだ捕まりたくねえの」
智樹:「大丈夫だって!犯罪すれすれで今までやってこれただろ?」
誠一:「今はまだ捕まりたくないの、留置所なんて行きたくない!」
智樹:「俺がやるから問題ないってば」
誠一:「事務所として問題なんだよ、責任者は誰だ?」
智樹:「お前だ」
誠一:「そうだ、俺だ。っで捕まるのは誰だ?」
智樹:「お前だ」
誠一:「そうだ、俺だ」
智樹:「ならいいじゃん」
誠一:「よくねえ!」
智樹:「いいじゃん、刑務所入っててよ。で、千秋を俺にちょうだいよ」
誠一:「なにさらっと怖い事言っちゃってるの?」
智樹:「本音?」
誠一:「本音って、おーい」
智樹:「ちぇ、いいよいいよ。ゆっくり攻めていくから」
誠一:「なにこのアグレッシブな人・・・」
智樹:「ともかくクラックするよ、いいね?」
誠一:「ダメだってば!」
智樹:「もう・・・わからないやつだな!
この件は結局クラッキングで入手した情報が決め手になるんだから」
誠一:「は?」
智樹:「遅かれ早かれそれで解決するの、今してもいいじゃん」
誠一:「そう言い切る根拠は?」
智樹:「勘・・・?」
誠一:「勘かよ!」
智樹:「そういうことにしといて」
誠一:「……もしかしてお前」
智樹:「……なに」
誠一:「未来人に結末教えてもらったな?」
智樹:「は?」
誠一:「だから、この件はこうして解決したって聞いたんだろ?
だから強く言い張ってんだろ」
智樹:「まあ、ね。始めるよ。・・・はい、はじめたよ」
誠一:「ああ、俺が逮捕されるのも決まった未来なのか」
智樹:「そんなことはないから」
誠一:「あ、そうなの?」
智樹:「そうそう。はい、終わったよ」
誠一:「はやっ!」
智樹:「まあ、ね」
誠一:「で、どんな情報が…?」
智樹:「見るのかよ」
誠一:「始めちまったもんはしょうがねえだろ・・・?」
智樹:「そうそう、始めちまったもんはしょうがない」
誠一:「で……?」
パソコンを覗く誠一。その横顔を少し眺め、椅子から立ち上がる智樹
誠一:「お前見ねえの?」
智樹:「あとで見るからいいよ」
誠一:「そうか、うわ…すっげーなこれ・・・!えー・・・若奥さんこぇー・・・」
押しのけるように椅子に座る誠一の後ろでポケットからナイフを取り出し、、、、、
誠一:「なあ」
智樹:「……なに?」
誠一:「んー、昨日の夜眠れた?」
智樹:「なんだよ急に」
誠一:「別に、ただの世間話だよ。で、昨夜よく眠れた?」
智樹:「まあ、ぼちぼちかな」
誠一:「そうかぁ・・・俺はあんま寝れなかったんだよね。
4時間しか寝てねえからつれーわー」
智樹:「あ、そう」
誠一:「反応薄いな。聞いてくれないの?『なんで寝れなかった』ってさ」
智樹:「なんで寝れなかったの?」
誠一:「ずっとお前を張ってたから」
智樹:「……はい?」
誠一:「やっぱり尾行は辛いわ、集中力使うし」
智樹:「どういうことだよ」
誠一:「いやね、ちょっとこの前の智樹君変だったから後つけてみたの。
夜逃げとかして消えるんじゃないかって心配してね」
智樹:「なんのことだよ」
誠一:「覚えてないの?辞めたいオーラ出してたじゃん」
智樹:「俺は辞めないよ。ずっとここにいるよ」
誠一:「そうか、それならいいんだけどな。
けどさ・・・じゃぁなんで俺ん家の前にずっと立ってたのさ?」
智樹:「は?」
誠一:「俺のマンションの前で張ってたよね?待ってたの?誰を?俺を?千秋を?」
智樹:「なんのことやらわかんないな」
誠一:「別に責めてるわけじゃないからさ。お前も何か想うことがあったんだろ?」
智樹:「……まあね、ばれたら仕方ないな。ちょっとお前の顔見たかっただけだよ」
誠一:「俺の?そりゃ嬉しいね。千秋待ってたんじゃないんだ」
智樹:「千秋じゃないよ、誠一を待ってたんだよ」
誠一:「そうかそうか、よかった。刺されるのが千秋じゃなくてよかった」
智樹:「は?」
誠一:「あのとき、持ってたんだろ?ナイフ…」
智樹:「持ってねえし!」
誠一:「ダメじゃないか未来は守らなきゃ・・・、
刺すのは俺、刺されるのはお前の役割だろ」
智樹:「誠一っ!」
誠一:「なんだよ・・・?」
智樹:「……変な冗談やめろよな」
誠一:「………バレたか」
智樹:「バレるも何もナイフなんか持ってないって」
誠一:「隠し持ってたらやだなって、カマかけたんだがな」
智樹:「俺を疑うなよ」
誠一:「悪い悪い」
智樹:「なあ」
誠一:「悪いってば」
ちぐはぐの空気にお互い苦笑いをする
誠一:「じゃぁ・・・これも無駄になったかな」
ソファーの下をまさぐって何かを探す誠一
智樹:「何やってんだよ?」
誠一:「んー?ちょっと待って。あっ!あったあった、これこれ」
智樹:「それは…」
誠一:「じゃっじゃじゃーん。盗聴器~♪」
智樹:「……そんなのあったっけ?」
誠一:「お前もひでー、千秋もこのこと忘れてたし。
いつか必要になるからって開業当初に買ったじゃん」
智樹:「いつから仕掛けてたの?」
誠一:「一昨日から。なんか千秋の様子もおかしかったからねぇ。
俺の知らないところでお前と何か話してるんじゃないかって気になってなぁ、
仕方なかったのさ」
智樹:「プライバシーなしなのな」
誠一:「当たり前だろ。そのための装置だ」
智樹:「一昨日からずっと稼働してたの?」
誠一:「そうだよ。録音した分は後でチェックしようと思ってたけど
そんなことしないでお前に直接聞けばよかったんだよな。信じなかった俺を許してくれ」
智樹:「あ・・・ああ、いいよ・・・だからさ、その機械はもう必要ないよね」
誠一:「あ?何勘違いしてるの?」
智樹:「は?」
誠一:「今でも俺はお前を信じてないよ」
智樹:「…………」
誠一:「信じてないからこのテープ聞くにきまってるじゃないか、なあ…」
智樹:「なんだよ、それ」
誠一:「聞かれてまずいことでも千秋にしゃべったのか?」
智樹:「なにもない」
誠一:「ならいいよな、これ聞いても」
智樹:「……ああ、好きにすればいい」
誠一:「二日分だからなあ。飛ばしても時間かかりそうだよなあ……」
盗聴器をパソコンに繋げようとする誠一。
誠一:「で、」
智樹:「なに?」
誠一:「お前は誰だ?」
智樹:「は?」
誠一:「お前は一体誰なんだ?」
智樹:「智樹に決まってるじゃないか」
誠一:「そうか、お前は智樹か・・・」
智樹:「そうだよ。智樹なんて名前のやつ他にいるわけないじゃないか」
誠一:「そうかそうか。でも、お前は違うよな」
智樹:「は?」
誠一:「お前は、俺の知る智樹じゃないよな?」
智樹:「何言ってるんだよ・・・」
誠一:「推測を言ってるんだよ」
智樹:「意味わかんねえ・・・」
誠一:「俺もわかんねえ・・・」
智樹:「じゃあ、いいじゃん。わかんないってことで」
誠一:「でも、これだけはわかる。智樹は・・・こんなことするはずがないっ!」
振り向いて智樹の持っているナイフを払い飛ばす
誠一:「俺が何も知らないと思ったか?」
智樹:「…………」
誠一:「わざわざお前の目の前で盗聴器なんて見せると思ったか?」
智樹:「……なんだよ」
誠一:「蚊帳の外だと思ったか?空気だと思ったか?
自分の思い通りに行くとでも思ったか?」
智樹:「誠一…」
誠一:「その名を呼ぶな!名前で呼んでいいのは智樹だけだ」
智樹:「俺が智樹だって!」
誠一:「違う!お前は俺の知ってる智樹じゃない」
智樹:「お前の知ってる俺だよ!!」
誠一:「お前は違う!もう聞いたんだよ、お前の声も、智樹の最後の声も。
お前が智樹を乗っ取る瞬間をこのテープはすべて録音していたんだ」
智樹:「違う、俺が智樹だ!誰に否定されようと俺の未来であることに変わりはない!
俺が考え、俺が行動した結果だ。お前なんかに俺の存在を否定してもらいたくない!」
誠一:「未来は変わるんだよ」
智樹:「ああ・・・そうだよ」
誠一:「未来は変えられるんだ、智樹がこうならないように気を付けるべきだったんだ。自分のことだけ喜んじゃダメだめなんだよ・・・、
智樹の気持ちを無視しちゃいけないんだよ!」
智樹:「後悔しても遅い」
誠一:「だから今、変われる」
智樹:「は?」
誠一:「・・・後悔するかもしれない、やり直したいって思うかもしれない。
けど、ダメだったからってリセットしないしやり直したりもしない!
やり直したらいけないんだ!後悔してでも現実を受け入れなきゃダメなんだ!
だからやり直すんじゃない・・・もう一度始めるんだ。
だから・・・返せよ・・・返せ!俺の知る智樹を今すぐ返せよ!!」
俯きながら話を聞いている智樹、だが、、、、
智樹:「くさ・・・」
誠一:「なんだと!?」
智樹:「なんかどこかで聞いたことあるセリフばっかり、映画の観すぎなんじゃない?
自分でいいこと言ってるって思って、俺が改心すると思ったの?あんな安易なセリフで」
誠一:「お前の中身が智樹なら分かってくれるはずだ!だから智樹を返せ!!」
智樹:「無理に決まってんじゃん」
誠一:「……あ?」
智樹:「まあしかし、焦ったし少しびっくりはした」
誠一:「無理ってなんだよ・・・?」
智樹:「だから不可能だって、だってキミの知る智樹君はもうこの世にいないんだもの」
誠一:「…おい」
智樹:「身体を入れ替えたのには気づいたんだよね?だったらわかるよね。
もともとの身体に放り込んだ智樹君はもう死んじゃった、この意味わかるよね?」
誠一:「嘘だろ・・・」
智樹:「嘘じゃない」
誠一:「嘘だと言え!」
智樹:「誠一はうるさいな」
誠一:「俺の名を呼ぶな!」
智樹:「じゃあ、俺の名を呼べ!」
誠一:「…………」
智樹:「俺を智樹だと認めろよ!で、三人で仲良くやっていくって事でいいんだよ、
考え直した所で智樹はもう――」
誠一:「(被せて)なんだよ考え直すって!」
智樹:「お前もここに残しておいてやるからさ」
誠一:「智樹ぃ!!」
智樹:「やっと言ってくれた、俺を智樹って呼んでくれた」
誠一:「お前は!」
智樹:「昔の智樹君はもう帰ってこないよ。
記憶再生手術なんてこの時代でできるはずがない。
君たちにはなんにもできない!だから俺を受け入れるしかないのさ!」
誠一:「うるさい・・・!!」
払い落としたナイフを拾って構える誠一
智樹:「後先考えずに感情的に動く奴はやだね。いい?今の状況わかってる?」
誠一:「お前はここに居ちゃいけないやつだ!」
智樹:「お前が何を知ろうとも世の中には関係ないんだよ!
誰が何と言おうともこの体は智樹だし、俺自身が智樹だ!
智樹:ちょっと新しい記憶が入ったくらいで人格も何もかわっちゃいない。
同一人物が入ってるだけだからね!
智樹:それにこの時代ではまだ脳科学はここまで発展していないだろ。だから――」
誠一:「(被せて)黙れ・・・!」
智樹:「ここでお前が俺を刺しちゃったとしても、
ただ君が同僚の綾瀬智樹を痴情の縺(もつ)れで刺しちゃったって事実しか残らないの」
誠一:「黙れ!」
智樹:「そしたら千秋・・・どう思うかな?」
誠一:「黙れぇぇぇぇ!!!!」
千秋が扉をあけるとそこには今にも智樹を刺しそうな誠一がいる
千秋:「いやああああああ!!!」
声に気づいてナイフを落とし崩れ落ちる誠一。
智樹:「お帰り、千秋」
千秋:「ともくん・・・、セーチ・・・」
智樹:「大丈夫だよ。刺されていないから。誠一はそんなことする奴じゃないから」
誠一:「…………」
千秋:「どうして・・・こんな・・・」
智樹:「俺にはよくわからない・・・なあ、誠一…」
誠一:「…………」
智樹:「ふざけてたんだろ?なぁ?」
誠一:「……あ」
智樹:「(耳元で囁く)なぁ・・・千秋が見てるぞ。なぁ!」
誠一:「……あ。あぁ・・・」
智樹:「千秋の足音が聞こえたからちょっと驚かそうと思ってさ」
千秋:「でも、叫び声が…」
智樹:「何もなかったんだよ、千秋」
千秋:「え?」
智樹:「何もなかったんだ、だから戻ろうよ!俺たちの日常に。
当たり前の生活に戻ろう?」
千秋:「でも……」
智樹:「誠一がふざけてたって言ったじゃないか。
そうだよ、誠一がそういうことにしたんだ」
千秋:「……え?」
智樹:「なぁ誠一、そうなんだろ?」
誠一:「…………」
智樹:「仲良くやっていこうよ、なっ!誠一くん」
誠一の肩をぽんぽんと叩く
間
更に時は進みいつもの事務所
智樹:「千秋、これコピーとっといて」
千秋:「はいはい」
智樹:「よし、と。これで報告書OKだね、誠一」
誠一:「…………」
智樹:「はい!チェックして、社長」
誠一:「ああ…」
智樹:「ひと段落だね」
千秋:「そうね」
智樹:「誠一のおかげだって」
誠一:「俺?」
千秋:「でも、危ないことはあまりしないでね」
誠一:「なんのこと・・・?」
智樹:「誠一がクラッキングしたんだろ」
誠一:「…なに………?」
千秋:「ネットの彼氏ねえ、これ浮気になるのかしら?」
智樹:「裁判とかは俺たちの知ったこっちゃないって」
誠一:「俺が?」
智樹:「福田さんの後の事なんてもう関係ないのさ」
誠一:「そういうことにしたのか・・・?」
智樹:「なんか言った?」
誠一:「…………」
誠一に近づく智樹
智樹:「(耳元で囁く)言いたいことがあるならはっきり言えよ」
誠一:「……俺は!」
千秋:「もういいから・・・はい、ともくん。コピーとったよ」
智樹:「ありがと千秋」
千秋:「はいはい」
誠一:「千秋…」
千秋:「……なに?」
誠一:「……なんもない」
智樹:「よし!・・・と、飯にしない?解決祝いにたまには外に行こうぜ」
千秋:「いいね」
誠一:「俺は・・・いいわ・・・」
智樹:「なんでだよ?みんなで行こうよ、三人でさ。な?行こうよ」
誠一:「気分じゃないんだ・・・」
智樹:「空気悪ぃな・・・」
千秋:「いいよ。セーチおいて行こう」
智樹:「……だね。もういいよ、君」
誠一:「…………」
智樹:「俺がせっかく残ってもいいって言ってるのにさ。残念だよ。でも……」
誠一の肩に手を置く智樹
智樹:「辛いんならさっさと消えたら?受け入れるんだろ?げ・ん・じ・つ」
誠一:「触るな!」
智樹の手を払いそのまま歩いて出ていこうとする誠一。
智樹:「どこ行くんだよ?」
誠一:「お前には関係ない」
歩いて出ていく誠一の姿を心配そうに見つめる千秋
智樹:「なんなの、あいつ?」
千秋:「さあ…」
智樹:「で、どこ行く?」
千秋:「…やっぱ私いいや」
智樹:「いいって?」
千秋:「セーチがちょっと気になるから・・・」
智樹:「ほっとけばいいじゃんか、あんなヤツ」
千秋:「そういうわけにはいかないよ!」
智樹:「なんで?」
千秋:「なんでって…」
智樹:「なんで千秋は誠一のことばかり…」
千秋:「ともくん?」
千秋から距離を取る智樹
智樹:「ねえ・・・千秋」
千秋:「なに?」
智樹:「俺のこと好き?」
千秋:「なによ・・・急に」
智樹:「いいから答えて!・・・俺のこと好き?」
千秋:「……好きよ」
智樹:「だよね!!」
千秋:「だよねって・・・」
智樹:「俺も、千秋のこと好きだよ」
千秋:「ありがとう・・・」
智樹:「そうじゃなくってさ、本当の意味でだよ。俺・・・千秋が好きなんだ」
千秋:「……ありがとう」
智樹:「今まで一回もまともに言えたことないけどさ、ずっと千秋が好きだった。
これが俺のすべて・・・俺の本当の気持ちなんだ!!」
千秋:「私は……」
智樹:「誠一が好き?」
千秋:「…そうだよ」
智樹:「嘘だね・・・」
千秋:「嘘じゃないよ!」
智樹:「そうかもしれない、嘘じゃないと思い込んでるかもしれないけどね、
違うんだよ!見ててわかるんだよ!!千秋は誠一を愛していない!!」
千秋:「違うよ!!」
智樹:「違わないよ!!!」
千秋:「違う!!!」
しばしの沈黙
智樹:「そう思い込みたいのはわかるけどね。もう・・・いいんだよ?
楽になっていいんだよ」
千秋:「ともくん・・・変だよ」
智樹:「そうかな?これが俺だよ。俺はこういうやつなんだよ!」
千秋:「ともくん・・・?」
智樹:「そうだよ、俺が智樹だよ…」
千秋:「綾瀬智樹!!」
智樹:「……なに?」
千秋:「教えて」
智樹:「なにを?」
千秋:「セーチがともくんを刺そうとしてた時のことを詳しく教えて」
智樹:「なんで?」
千秋:「聞きたいの・・・」
智樹:「聞けばきっと後悔する」
千秋:「構わない・・・」
智樹:「聞けばきっと嫌いになる」
千秋:「ともくんを嫌いになったりしないよ」
智樹:「違うよ」
千秋:「何が・・・?」
智樹:「聞けばきっと誠一を嫌いになる」
千秋:「私はセーチを嫌いになったりしないよ」
智樹:「……そうか」
千秋:「……ともくん?」
智樹:「そうだよな・・・」
千秋:「ともくん・・・!!」
智樹:「はは・・・・ははははは・・・・・・」
千秋:「ねえ・・・聞いてる?」
智樹:「いいよいいよ。俺にはまだたっぷり時間はあるんだから」
千秋:「ともくん・・・待って!!」
出ていく智樹を追いかける千秋
入れ替わりで荒々しく事務所に戻ってくる誠一。
誠一:「くそっ!!」
机を思いっきり叩く
誠一:「どうすればいいんだよ・・・」
そこへゆきが現れる
ゆき:「大丈夫だよ・・・」
誠一:「なっ……、お前は……智樹、か?」
ゆき:「(優しく微笑む)もういいんだよ、誠一」
誠一:「誰だよ!・・・お前誰だよ!!」
ゆき:「あとは任せて…」
姿を消すゆき
誠一:「おいっ…!」
追いかけようとするが入口で千秋と会ってしまう
千秋:「セーチ……」
千秋から目をそらしてソファへ移動する
誠一:「あいつは?」
千秋:「………わからないの」
誠一:「は?」
千秋:「私だけ、何も知らないの…」
誠一:「…………」
千秋:「……ねえ」
誠一:「………なに」
千秋:「何が起こったの?」
誠一:「なんのことだよ」
千秋:「何かあったんだよね?」
誠一:「なんもねえよ・・・」
千秋:「ねえ…」
誠一:「ないって言ってんだろっ!!」
机を思いっきり叩く
千秋:「セーチ・・・変わったよね」
誠一:「変わってねえよ!」
千秋:「変わったよ・・・ともくんも…」
誠一:「……そうかもな・・・俺たち変わったかもな」
千秋:「変わらないのは私だけなんだよ・・・」
誠一:「千秋は変わらなくていいんじゃねぇの?」
千秋:「寂しいよ・・・」
誠一:「何も知らねえくせに・・・」
千秋:「だから知りたいの!!」
お互いに顔を俯かせる
千秋:「ねえ、どうしてセーチがともくんを刺さなきゃいけないの?」
誠一:「…………」
千秋:「どうしてともくんはあんなに普通にしてるの!?
どうして私は何も知らないの・・・?どうして……、いつも通りにならないの…」
誠一:「いつも通りじゃないからだよ・・・」
千秋:「え……」
誠一:「俺・・・もういつも通りにする自信がねえよ」
千秋:「ともくんが違うから・・・ね?」
誠一:「千秋・・・!」
千秋:「違うんだねともくんが・・・。今の綾瀬智樹は、ともくんじゃないんだね」
誠一:「どうしてそれを…」
千秋:「やっぱり・・・!」
誠一:「おい!」
千秋:「あの綾瀬智樹は…、未来人・・・なんだね?」
誠一:「なんでわかるんだよ・・・」
千秋:「わかるよ・・・」
誠一:「なんで・・・」
千秋:「『女』・・・だもん」
誠一:「(吹き出す)…ぷ、はは……ははは、意味わかんねえ」
千秋:「いいの、それで」
誠一:「いいのかよ」
千秋:「じゃあ、本当のともくんはどこ行ったの?」
誠一:「…それは」
千秋:「あの智樹が未来の智樹なら、私たちのともくんはどこに行ったの?
消えたわけじゃないんだよね?」
誠一:「…もう無理だって言ってた」
千秋:「嘘・・・!」
誠一:「未来の技術じゃない限り、
元に戻すのは不可能だってあいつは言いやがった。それに…」
千秋:「なに?」
誠一:「あいつが言うには智樹は、もう…」
千秋:「大丈夫!」
誠一:「おい!」
千秋:「大丈夫だよ。きっと何か手はある」
誠一:「根拠のない大丈夫は好きじゃないんだけど・・・」
千秋:「だから考えるの!」
誠一:「考える…」
千秋:「根拠のない無理よりはいいと思うよ?」
誠一:「そうだな」
千秋:「ともくんを取り戻そう?」
誠一:「ああ」
千秋:「ちゃんと考えよう」
誠一:「ああ!」
千秋:「でも、どうすれば……」
誠一:「未来の技術なら、か…」
千秋:「未来なら……」
誠一:「技術が発展するまで待つのか・・・?
何十年も智樹をあのままにしておいて、急に戻すってか?」
千秋:「だったら……、………あ!」
思い出すように何かを閃く千秋
誠一:「なんだよ?」
千秋:「もしかしたら…」
誠一:「思いついたのか?」
千秋:「まだ、間に合うかもしれない・・・」
誠一:「はあ?」
千秋:「………ねえ、セーチ。元の三人に戻りたい?」
誠一:「当たり前だろ」
千秋:「私も・・・私も三人でバカしたい。失敗してもいい、純粋に楽しくありたい」
誠一:「ああ」
千秋:「私が……」
誠一:「どういうことだよ」
千秋:「…………」
誠一:「おい、千秋!」
千秋:「セーチ、ちょっと外行っててくれるかな」
誠一:「どうして」
千秋:「いいから」
誠一:「変なことしないよな」
千秋:「しないよ」
誠一:「千秋は・・・いなくならないよな」
千秋:「大丈夫」
誠一:「大丈夫って…」
千秋:「いいから、一時間でいいからちょっと外出てて。絶対覗かないでね?」
誠一:「……わかった」
外へ出かけていく誠一は心配になり千秋の方に振り向くとにっこりとほほ笑み返される
千秋:「ありがと、セーチ」
事務所へ智樹が走って戻ってくる
智樹:「くそっ!」
怒りで机にある書類をぐちゃぐちゃにしては投げる、そしてその投げた先には・・・・
智樹:「なん・・・で、お前は・・・」
ゆき:「(智樹に微笑み返す)」
智樹:「嘘だ・・・だって、お前は・・・」
智樹にゆっくり近づくゆき
智樹:「死んだろ・・・お前!・・・消えたよな・・・!なあ!!?」
更に1歩、智樹に近づく
ゆき:「・・・とも・・・き・・・」
智樹:「ちっ・・・近づくな!!」
智樹に手をかざすゆき
智樹:「やめろって・・・この身体は俺のものだ!返さない!!返してたまるか!!!」
恐怖を感じて後ずさると、『何か』に当たる
智樹:「千・・・秋・・・・・」
そこには千秋がいるが、智樹を見るだけで喋ろうとしない
千秋:「・・・・・」
智樹:「助けてくれよ!!千秋!!こいつ変なんだ・・・俺を・・・!」
千秋に縋り付くが微動だにしない
智樹:「なぁ・・・千秋・・・千秋!!」
智樹の頭に手をのせるゆき
智樹:「え・・・?なに――」
千秋:「(被せて)ともくんを・・・返して」
智樹:「千秋…?」
千秋:「返して・・・」
智樹:「俺が智樹だよ・・・」
千秋:「違うよ」
智樹:「俺が智樹なんだよ!!」
千秋:「君はともくんじゃないよ」
智樹:「俺なんだよ!!!」
辺りが静まり返る
智樹:「千秋に会いたくて、千秋を救いたくて!
・・・千秋に認められたくて!!……俺は…!」
千秋:(ゆき)「言い残したこと、ある?」
智樹:「なんだったんだよ・・・俺の人生。
こんなにも苦しんで、過去も未来も全てを捨てたのに!
幸せになろうとして何が悪いんだよ」
千秋:(ゆき)「人の幸せを本当に願うことが出来なかったんだね」
智樹:「違う!!俺はずっと人のことばかり考えてきた・・・!
だから俺だって幸せになっていいはずだ!」
千秋:(ゆき)「本当にそう思ってるの?」
智樹:「そうだよ・・・俺は努力しただけだよ!最善を選んだだけだよ!!
だから幸せになる権利は俺にだってあっていいはずなんだよ!」
千秋:(ゆき)「幸せになる権利はあったとしても、
人を不幸にする権利なんかないんだよ」
智樹:「うるさい!」
千秋:(ゆき)「君はそんな人じゃないのに……」
智樹:「うるさい!!!」
千秋:(ゆき)「ねえ…」
智樹:「邪魔するな!智樹!!」
ゆき:「……わたしは智樹じゃないよ」
智樹:「まさか・・・お前は・・・」
ゆき:「おやすみ、智樹」
智樹の頭に手を触れると意識が遠のいていく
千秋とゆきが互いに向かいあって立っている
ゆき:「終わったよ」
千秋:「お疲れ様」
ゆき:「驚かないね」
千秋:「だって思いついちゃったから・・・。それならすぐだと思って」
ゆき:「わかってたけどね」
千秋:「ともくんは…」
ゆき:「上書きされた記憶は消去した」
千秋:「と、言うと?」
ゆき:「あなたの知るともくんが帰って来るよ」
千秋:「じゃあ、未来の智樹の記憶は?」
ゆき:「消えたよ」
千秋:「…そう」
ゆき:「仕方ないし、あなたが選んだことなんだよ?」
千秋:「そう・・・ね」
しばしの間
千秋:「おかえり、千秋」
ゆき:「ただいま、千秋」
千秋:「早かったね」
ゆき:「早ければ早い方がいいからね」
千秋:「そうね」
ゆき:「さっきね…、少し誠一に会った」
千秋:「セーチに?」
ゆき:「若かった(笑う)」
千秋:「そうかな?年の割に老けてるよ」
ゆき:「若いよ、まだわたしの恋人なんだよね?」
千秋:「まだ?」
ゆき:「あ・・・失言だったね」
千秋:「そうね、失言」
ゆき:「未来は知りたくないよね」
千秋:「知りたくない」
ゆき:「よね?わたしだもん」
千秋:「知っても知らなくても、どうにだって変るんだから」
ゆき:「来なかったらどうするつもりだったの?」
千秋:「来なかったら、わたしが動くよ。四十年かかるけど、昔の私を助ける・・・。
そうしたらそのわたしはまた飛ぶ事になるから歴史が確定する」
ゆき:「そうね。今・・・歴史は確定したの。
あとはあなたが飛ぶだけ、…あなたが選んだことよ」
千秋:「ええ・・・私が思いついたこと」
ゆき:「そしてわたしが実行したこと」
千秋:「タイムマシンが完成したら、未来の技術を持ってまた私が飛ぶ。
そしてともくんの記憶を呼び戻す。未来の智樹にできたんだから、
未来の私にできないはずがない」
ゆき:「飛ぶ時間軸はこのタイミングじゃないとダメだった。
癌になる前のともくんを救ったとしても、
そのともくんを飛ばすだけになって歴史は変わらない」
千秋:「癌になったともくん助けた後に、
未来のともくんを止めたとしたら、この時間軸は救われないまま。
なにより、私自身が何も思い立たないから過去に行くことがなくなる」
ゆき:「歴史を、運命を確定するにはこのタイミング。
智樹が入れ替わった後、しかも千秋がこのことを思いついた後じゃないといけなかった」
千秋:「そう・・・さっき思いついたから、
だからあなたはここに来てくれるものだと思った」
ゆき:「私の意思を確定するためにね」
千秋:「ねえ・・・」
ゆき:「なに?」
千秋:「これで・・・いいんだよね?」
ゆき:「……さあ?」
千秋:「さあ・・・って」
ゆき:「あなたはあなたのエゴを通しただけ」
千秋:「そうだけど…」
ゆき:「智樹だって智樹のエゴがあった・・・、彼にも望んだ未来があったんだよ」
千秋:「そう・・・ね」
ゆき:「それを消したのはあなただよ」
千秋:「わかってる」
ゆき:「本当に?」
千秋:「だって、あなたは来たんだもの」
ゆき:「そう…」
千秋:「それってつまり、私が望んだこと?それがずっと続いてたってことでしょ?」
ゆき:「そうだよ、あなたはエゴを貫き通すの。でもね・・・」
千秋:「なに?」
ゆき:「迷ったって、悩んだっていいんだよ。
だってこれからの未来を作るのはあなたなんだから、私じゃない」
千秋:「うん」
ゆき:「あなたはこれから真っ白な歴史を歩む事になる。
運命と嘆かず、使命と決めつけず自分で進む。歴史は確定しなくていいんだよ。
あなたが嫌だったら、未来で過去に飛ばなくったっていいんだよ」
千秋:「それはしないよ」
ゆき:「……」
千秋:「わかってるんでしょ?わたし」
ゆき:「そうね」
千秋:「でも、なんでそんな姿に?」
ゆき:「智樹を油断させるためと、驚かせるため。あとは、…未来になると分かるよ」
千秋:「へえ」
ゆき:「じゃあ、がんばってね」
千秋:「どこに行くの?」
ゆき:「決めてない」
千秋:「ここにいればいいのに」
ゆき:「それ、昔私が言ったセリフ」
千秋:「残ればいいのに」
ゆき:「だめだよ」
千秋:「ダメじゃない」
ゆき:「ねえ、私の願いは・・・、この探偵社が今迄通り続くことなんだよ。
そこに私の居場所はないから」
千秋:「作るから」
ゆき:「いらない・・・だって」
千秋:「……?」
ゆき:「ううん、なんでもない」
優しく微笑むゆき
ゆき:「智樹を許してあげて」
千秋:「当たり前じゃない」
ゆき:「誠一を大事に」
千秋:「少しは考える」
ゆき:「自分を大切に」
千秋:「あなたこそ」
ゆき:「幸せになってね」
千秋:「あなたは幸せだった?」
ゆき:「聞きたい?」
千秋:「聞けばきっと…」
ゆき:「幸せだった」
ゆきの答えに少し驚くが、納得して微笑み返す
ゆき:「私は人生に満足してるよ」
千秋:「じゃあ、わたしも幸せだ」
ゆき:「幸せに、おなりなさい」
千秋:「ありがとう、未来の私」
笑顔を返す千秋
そして時が進んでいつもの事務所を、忙しなくせわしなく動く智樹に
書類が進まない誠一、その後ろで茶を淹れる千秋。
誠一:「なんでうちが訴訟されなきゃなんねえんだよ」
智樹:「お前のミスだろ?」
誠一:「俺か、本当に俺なのか?」
智樹:「責任者は誰だ?」
誠一:「俺だ!」
智樹:「なら大丈夫だ」
誠一:「なにぃ!?」
智樹:「千秋、これコピーとっといて」
誠一:「責任って何?なんなのさ!!」
千秋:「ちょっと待って」
0:机に茶を置く千秋
千秋:「ねぇ、まずお茶にしない?」
智樹:「お茶請けは?」
千秋:「皆大好き、どら焼き♪」
誠一:「おー!どらやきかぁ、いいねぇ!疲れた時には甘いもんってな!」
千秋:「だから、みんなで食べよ」
ソファーに集まる3人
智樹:「いただきます!」
手を合わせて頬張ってたべる現代の綾瀬智樹の姿
千秋:「こうして、私たちの人生は止まる事なく進んでいくのです。
私は途中で過去へ戻ることになるけど、それはまた先の話、まだまだ先の話。
だから私は今を楽しむのです!私は私の人生を歩んでいくのです!」
そこへゆきの声が聞こえる
ゆき:「未来の智樹を殺しておいて?」
千秋:「私はこれからも幸せです」
ゆき:「自分の望みだけをかなえて?」
千秋:「私は……!」
ゆき:「本当にそれで、アナタはよかったの・・・?」
背後を振り返る千秋。しかし、そこには何もなく、
ただ、菓子を食らう智樹と誠一の薄暗い姿があるだけだった。
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